大工からCADの仕事へ|脊髄損傷後に学び、働き始めるまで

自宅のノートパソコンでCADの図面作成をする作業環境

僕は現在、会社員として建築現場の図面をCADで作成する仕事をしています。

事故の前は大工職人でした。パソコンは持っていたものの、使うのはゲームやインターネットくらい。
そんな僕が、脊髄損傷を負ったあとにCADを学び、自宅で仕事を始め、正社員として働くようになりました。

最初から進む方向が決まっていたわけではありません。入院中の何気ない会話、退院後に始めた勉強、以前の仕事仲間とのつながりが少しずつ重なり、今の仕事につながりました。

今回は、CADを学ぼうと思ったきっかけから、実際に働き始めるまでを振り返ります。

目次

退院が近づき、住まいと仕事を考え始めた

入院中は、ひたすらリハビリをする毎日でした。

退院の時期が近づいてくると、退院後の住まいや仕事について、ソーシャルワーカーや主治医と話す機会が
増えてきます。

当時の僕には、「これから何の仕事ができるのか」という具体的なイメージがありませんでした。

車椅子での生活になる以上、以前のように大工として現場で働くのは難しい。
まずはパソコンを使えるようにならないと、という程度にしか考えられていませんでした。

そんなとき、主治医から障害のある人を対象とした職業訓練施設の話を聞きました。紹介された施設には、
いろいろなCADを学べるコースがあるとのことでした。

以前にも主治医から、同じ脊髄損傷がありながら建築の設計に携わっている方の話を聞いていました。実際に会う機会は残念ながらなくなりましたが、その方の会社のホームページやブログを見て、「こういう働き方もあるんだ」と感じたことを覚えています。

大工の経験を、別の形で生かせるかもしれない

主治医は、僕が前職で大工をしていたことを知っていました。

その主治医から「大工さんが設計をしたら、すごそうですね」といった言葉をかけてもらい、目の前が開けたように
感じました。

設計、図面、CAD。

図面は大工時代に見てきたので、まったく知らない世界ではありません。身体を使う仕事は難しくても、
これまでの経験を別の形で生かせるかもしれないと思いました。

そこで「まずはJw_cadを覚えよう」と決め、退院後すぐにパソコン教室へ通い始めました。

退院後、パソコン教室でCADを学んだ

教室ではJw_cadの基本を学び、ひと通り操作を身につけたことを確認する試験にも合格しました。

パソコンそのものに慣れていなかったので、最初は苦労しました。今でも勉強の連続ですが、このときに基礎を身に
つけたことは大きかったと思います。

後に仕事の話をいただいたとき、「できます」と答えられたのも、先に学び始めていたからです。

現在はほかのCADソフトも使っていますが、入院中にもらったヒントをきっかけに行動したことが、今の仕事に
つながっています。

仕事のきっかけをくれたのは、以前の仲間だった

退院後は、1年ほど実家に戻って生活していました。

その後自立のためにと住まいを探していましたが、なかなか見つかりませんでした。

以前の会社の社長に相談し、借家のオーナーさんを紹介してもらいました。

出ていくときに現状に戻すという条件ですが快く承諾してくださいました。

車椅子で生活できるよう、以前お世話になっていた会社へリフォームをお願いしました。

工事を仕切ってくれた部長から「問題がないか見に来てよ」と連絡があり、現場で少し打ち合わせをしたあと、仕事の話になりました。

どうやら社長は、僕がすでに別のところで仕事を見つけたと思っていたようです。

実際には、住む場所と並行して仕事も探していました。ただ、住まいの相談までしているのに、仕事のことまでお願いするのは図々しい気がして、言い出せずにいました。

その気持ちを部長に伝えると、叱られました。

「そんな遠慮するなよ。仲間だろう」

泣きそうになるほどうれしかったことを、今でも覚えています。

そこで僕は、「自分にもできる仕事があったら、何でも紹介してください」とお願いしました。

自宅での図面作成から仕事が始まった

部長はすぐに動いてくれました。

すぐに仕事が始まったわけではありませんが、会社と話をして、自宅でできる仕事と必要な設備を用意して
くれました。

最初は会社のパソコンを借り、自宅でCADを使った図面作成を始めました。当時は会社の近くに住んでいたため、
定期的に会社の方に来てもらい、USBでデータを渡したり、メールでやり取りしたりしていました。

それから約1年半後、正社員として雇ってもらえることになりました。

僕に仕事のきっかけをくれた部長は、今も僕が所属する部署の部長です。普段は気軽に話していますが、
社長と同じく、今でも頭が上がらない、尊敬している人です。

大工の経験は、CADの仕事でも無駄にならなかった

大工とCADでは、まったく違う仕事に見えるかもしれません。

しかし実際に仕事を始めてみると、現場で身につけた経験が図面作成にかなり役立ちました。

図面を見たときに、現場でどのように納まるのかを想像できる。施工する人が迷いそうな部分にも気づきやすい。
以前の経験があったからこそ、図面作成だけでなく、設計士さんをサポートするような仕事も任せてもらえるように
なりました。

事故によって大工の仕事は続けられなくなりましたが、それまで積み重ねてきた経験までなくなったわけでは
ありませんでした。

形を変えて、今の仕事に生きています。

振り返って思うこと

障害が残った直後は、落ち込んだり、いら立ったりするのも当然だと思います。僕も、すぐに前向きになれたわけではありません。

それでも、入院中に主治医や理学療法士、作業療法士などから教えてもらったことや、周りの人からもらった言葉は、今でも日々の行動や考え方に影響しています。

主治医の何気ないひと言がCADを学ぶきっかけになり、退院後に始めた勉強が仕事の話を受ける自信になり、
以前の仲間とのつながりが実際の仕事につながりました。

人生のどこに、次のヒントがあるかは分かりません。

そして、自分ひとりの力だけで今の仕事にたどり着いたわけではありません。周りの方が動いてくれたことへの
感謝は、これからも忘れずにいたいと思います。

まとめ|以前の経験が別の仕事につながることもある

僕は脊髄損傷を負い、大工からCADを使う仕事へ移りました。

振り返ると、今の仕事につながったのは、入院中にCADという選択肢を教えてもらったこと、退院後に
学び始めたこと、大工時代の経験、そして以前の仲間が働ける環境を用意してくれたことが重なったからだと
思います。

僕の経験がそのまま誰かに当てはまるわけではありません。それでも、これまでの経験が別の仕事で生きたり、
思いがけない人のひと言が次の道につながったりすることはあります。

今、仕事やこれからの生活について悩んでいる方にとって、この体験がひとつの参考になればうれしいです。

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この記事を書いた人

脊髄損傷歴14年の車椅子ユーザー。園芸や暮らしの工夫を通して、無理なく続けられる生活環境づくりを記録しています。

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